2005年12月20日

【大人のクリスマス絵本】カポーティ

子供のクリスマス絵本があるように、大人にもクリスマス絵本がある。といっても、これはれっきとした短編小説で、山本容子さんの素敵な銅版画の表紙と挿絵がはいっているので、絵本扱いにしてみました。

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『あるクリスマス』トルーマン・カポーティ(村上春樹・訳)

カポーティといえば「ティファニーで朝食を」とか「冷血」とか、映画化された作品名が浮かぶかと思いますが、幼くして両親の離婚を経験し、親戚をたらいまわしにされたカポーティ自身の経験が色濃くにじむこの作品は、子供が間違って口にしてしまったブラックチョコレートのような、切なく苦いクリスマス・ストーリーです。

離婚した両親と離れ、アラバマの母方の実家で暮らす『ぼく』へ、ニュー・オーリンズに住む父親から、クリスマスを一緒に過ごさないかという手紙が届きます。いやいやながら、400マイルの小旅行を経て父親の元へ向かう『ぼく』。慣れない都会、なじめない父親、「ニュー・オーリンズで一緒に暮らさないか」といわれても、ただ住み慣れたアラバマに帰りたいと願い続ける『ぼく』。

そんな『ぼく』が唯一ニュー・オーリンズで心ひかれたもの、それがペダルでこぐ玩具の飛行機だったのでした。サンタクロースを信じている『ぼく』は心から願います。サンタクロースがその飛行機を、『ぼく』にプレゼントしてくれますように、と。

クリスマスのパーティーで、年上の女たちと踊るジゴロのパパを醒めた目で見ながら、『ぼく』はこんな調子でサンタクロースが家に来てくれるのだろうかと、そのことばかりでやきもきして、眠れないまま夜を迎えてしまいます。やがて客が帰って静かになった家の中を、父親の足音や包装紙のがさつく音が聞こえ…とうとう『ぼく』は知ってしまうのです。サンタクロースなんていないんだ、ということを。ツリーの下に積み上げられたプレゼント、それはサンタクロースが持ってきたのではなくて。ただ、パパが置いたものだったのだ、ということを。

『ぼく』のささやかな、そして残酷な復讐は翌朝、結局父親に向けられることになります。サンタクロースの贈り物はとても素敵だったよ。でも「お父さんは」僕に何をくれるの?

『ぼく』はそうやって、あの玩具の飛行機を手に入れるのですが、父親は密造酒をあおり、『ぼく』を送る道すがら、母親の実家のひとびとをなじりつづけます。6歳にもなって…サンタクロース…あの気の触れたボロ家の気の触れた連中の中にお前を帰すわけにはいかない…
「なあバディ、神さまなんぞいないんだ!サンタクロースなんてのもいないんだよ。」


「ときどきな、俺はこう思うんだ。こんなことにしちまった責任をとって、俺もお前の母さんも、二人とも自殺するべきなんじゃじゃないかってな。」
「どうかキスしておくれ。お願いだからキスしておくれ。お父さんに愛してるって言ってくれ。」

『あるクリスマス』トルーマン・カポーティ(村上春樹・訳)


アラバマに帰った『ぼく』に、父親いわく、「聖書を読むことと編み物をすることにしか能のない」、そして『ぼく』にとっては一番の友達であるスックが、どのように『ぼく』にもう一度、サンタクロースはもちろんいるのよ、ということを教え諭してくれるのか。そして父親についに「愛してる」といえなかった『ぼく』が、主のめいじる静かな声にしたがって、翌日どのような行動を起こすのか。それはどうぞこの小説を読んで、確かめてください。

『サンタクロースっているんでしょうか』という絵本のレビューの中で、私はとても楽観的で美しい、アメリカのエピソードを紹介しました。この小説は、その明るさの対極に位置するような、苦く残酷な、そしてやはりアメリカという国を舞台にした小説です。けれども、この物語のラストに、ほんのわずかな救いと、そのほんのわずかな救いのわずかさゆえの、狂おしいほどの痛みもまた、離婚大国であるアメリカという国のひとつの表情であると思います。

この小説をカポーティーが著す前年に、彼の父親は亡くなっています。自殺ではありませんでしたが。ちなみに彼の母親は、再婚ののち、自殺して亡くなりました。母親は彼を愛していなかったけれど、彼は母親を熱愛しており、しかしその愛が許容されないことを知りもしていました。そして彼の父親が小説のとおり彼に愛を求めたとき、幼い少年はそれに応えるすべを知らなかったのです。

この小説は、実質的にトルーマン・カポーティ最後の小説であり、いなくなった父親への、少年からの最後のクリスマスプレゼントのようでもあります。

「アル中でヤク中でホモで天才」を自称した、カポーティのオーラル・バイオグラフィーはこちら。
『トルーマン・カポーティ』ジョージ・プリンストン著


ラベル: 絵本
posted by なつめ at 01:25| Comment(1) | TrackBack(0) | おとなが読む本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なつめさん、こんばんは。
今日はまた一段と寒い気がしますが、おかげさまで咳を気にせずに
外出できるようになりました。
日記には書かなかったけど聴診すらしない医者にやや不信感だったんです。
次に行ったら先生が違って、聴診とか吸入とかやってくれて
薬も変わりました。まだ完全とは言えないのですが、まずはホッとしています。

残念というか、あまりに辛い子供の事件が続いていますが
世界中の子供たちにとって幸せなクリスマスになることを
祈らざるにいられません。
なつめさん、お子さんと一緒に、良いクリスマスを!

Posted by wheatgrass at 2005年12月22日 23:22
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