2011年10月17日

「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子

単行本が出たときから、読みたくて仕方なかった本だったのだけれど、何かタイミングがあわずにそのままになっていた本が、文庫になっていたので、あらためて買ってみました。


猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)
小川 洋子
文藝春秋 (2011-07-08)
売り上げランキング: 8651


小川洋子は「博士の愛した数式」が有名だと思いますが、存命の日本の小説家の中でも、ストーリーテラーとして特に優れた小説家だと思っていて、好きな作家さんです。日本の小説というのはどうも「私小説」の比重が大きくて、エンタメ系意外でストーリーで読ませるものになかなか出会えない。ノーベル文学賞に幾度となく取りざたされる村上春樹とかですらそうです。彼の場合は初期三部作でおそらく書くべきことはすべて終わったんだと思う。「羊をめぐる冒険」は私は今でも名作だと思っているけど(本当は「1973年のピンボール」のほうが好きですが)、「ノルウェイの森」から先は、ほぼそれまでに蓄えたテクニックだけで書いていると思う。

でまあ、それはともかくとして、小川洋子です。この作品が2009年の発表で、その後はどうやら、短編集とか対談本が主で、このようなじっくりした長編を書いてないらしい。

「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。


というのが、BOOKSデータベースの謳い文句ですが、えええ到達点にされてる、と私は焦ってしまいました。でも、そう書きたくなるような、完成度の高い小説でした。ヨーロッパ映画を見ているような、そんな小説。


小川さんの小説には、前述の「博士の愛した数学」もそうなのですが、「美しき真理」に対するフェティシズムのような執着がモチーフとしてよくあらわれて、それがこのなんともいえないヨーロッパ的な雰囲気をかもし出すのだと思います。

チョビが小さい頃、囲碁を習っていたのですが、この先生も、よく囲碁の手について「それは美しくないね」「この手は美しい」ということをおっしゃっていました。「博士の愛した数式」の中で、「数学の美」を描いた小川さんは、この小説の中では、チェスというゲームの「美」を、織物を織るように丁寧に丁寧に描き出していきます。物語じたいはきわめて映像的でありながら、このチェス盤の上に訪れる奇跡的な美の瞬間は、どのようにであれ可視化できるものではなく、その捉えられないものの周辺に、警察の鑑識の人が粉をはたいて犯人の痕跡を追おうとするように、粘り強い文章が張り巡らされている。まるで物語の中のチェスの勝負をなぞるように、小説家が「美しいもの」を捉えようとするしぐさが感じられる文章で、これはもう小説にしかできない仕事をしていると思う。

久しぶりに、きちんとした重力のある文章で、いい物語を読みました。物語世界に没頭したい感じの小説なので、一章ずつ途切れ途切れに読むよりは、一気に読むのがオススメです。秋の夜長に、暖かい飲み物を用意して読みたい小説。そうだ、積読になってたいしいしんじの続きも読もうっと♪

映画にしても小説にしても、ちょっと間があくとインプットが止まってしまうのですが、ひとつ手を出すと次々みたいものや読みたいものが増えてきますね。積読いっぱいあるからなー。読書の秋、楽しもうと思います。

博士の愛した数式 (新潮文庫)
小川 洋子
新潮社
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ちなみにいしいしんじは、目下のところ、コレ↓が積読中。
プラネタリウムのふたご (講談社文庫)
いしい しんじ
講談社
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ラベル:小説
posted by なつめ at 23:30| Comment(4) | TrackBack(0) | おとなが読む本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
興味深い本ですね。

無性に本が読みたくなる時があって、
たまには違うジャンルの本を読んでみよう
テレビや雑誌で見たお勧めの本を読んでみよう
って思いながら本屋さんに行くんですが・・・
ついつい自分の好きな推理小説のコーナーへ(笑)

たまに他ジャンルを読んでみたりもしますが、
やっぱり推理小説に帰ってきちゃいますね。


読書の秋です。
いろんな本と出会って、充実した時間を過ごしたいなと思ってます。

Posted by のの at 2011年10月18日 13:15
なつめさんはたぶんフルタイムでお仕事されてると思うんですが、動画やツイのチェックにブログ、チョビくんのお世話や相手、そして読書…いったいいつ寝てらっしゃるんでしょう?

韓国ドラマにハマって、夜な夜な睡眠時間を削ってテレビ(ビデオ)に向かう私に、当時高校生だった娘が『まるで鶴の恩返しみたい。』と言い放ったものです。

おつうは我が身を削って毎日機織りをしていた訳ですが、私は我が身を削ることなど全くなく、睡眠時間を削ってひたすら画面に向かっていたという訳です。

年齢的にはもう老眼鏡が必要になってくる頃なんですが、人より成長が遅い私は、まだ裸眼で日常生活は大丈夫です。
ただここ1年くらい小さな文字を読むのが苦痛になってきたので、本とはすっかりご無沙汰になっており、もどかしい思いを抱えています。

小川洋子さんは一時岡山在住で、ローカル番組とかでもよくお見かけしており、勝手に親近感を感じております。
晴れて老眼鏡使用の時を迎えましたら、なつめさんのレビューを参考に色々読んでみたいですね。

Posted by れいこ at 2011年10月18日 14:09
『博士の愛した数式』が大好きな私には、非常に興味深い作品ですね。

昔から読書大好きな私ですが、最近はマンガ中心で、活字のみというのは少しご無沙汰です;
が、最近『鞄図書館』や『うごかし屋』を読んで、本が読みたい欲がふつふつと。
最近は中村航さんの作品をよく読んでいます。

なつめ様のレビューを読んで、またいろいろ本を探してみようと思います。
Posted by ミカコ at 2011年10月18日 17:30
◇ののさま:
父がミステリ好きだったので、存命中は「ミステリ専門中古書店」ができるぐらい家に推理小説やスパイ小説がいっぱいありました。最近読んでないなー。

◇れいこさま:
鶴の恩返しwww 私も20代とかに比べると全然夜更かしできなくなりましたが、睡眠時間は平均4時間半ぐらいでしょうか。でも洗濯機まわしながらのお座敷ペン活動は、仕事でぴりぴりした頭をリラックスモードにするにはちょうどいいです。目がいいのはうらやましいなぁー私少々老眼の気配です。こんなに早く始まるなんて!って思ったけど、30代後半できちゃう人もいるんだそうですね。びっくり。

◇ミカコさま:
マンガは今、チョビと一緒にワンピース読んでますよー。あれにだけは手を出すまいと思ってたんですが(多いし完結してないから)、職場の人が「チョビくんに是非!」って貸してくれたので結局私もよんでますー。

Posted by なつめ at 2011年10月19日 23:56
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