2012年03月20日

舟を編む…結び合う言葉

結構話題になってるみたいですね。この本、読了しました。


舟を編む
舟を編む
posted with amazlet at 12.03.20
三浦 しをん
光文社
売り上げランキング: 398


三浦しをん、という人は、「風が強く吹いている」しか読んだことなくて、可もなく不可もなしというかあまり印象の強い作家さんではなかったのですが、今回なんで読んでみたかというと、この小説が、出版社の中ではちょっとマイナーかつマニアックな部署である「辞典編集部」を舞台としていたからです。

私出版関係の仕事をしてますが、この辞書事典編集部っていうのは本当〜に他の部署とはちょっと違うとこなんです。週刊誌編集者が毎週一冊雑誌を出し、単行本編集者が年に数冊単行本を出してる間に、辞書・事典編集者は延々辞書の編集やってるんです。それがどれぐらいかっていうと、二年三年は当たり前で、大きな辞書だと10年とかそういう単位になります。

関わる人数も大型辞書や百科事典になると桁違い。とくに百科事典なんかは何百人とか何千人という執筆者がいて、気が遠くなるような時間をかけて、一つの辞書・事典を作り上げていくんです。出版社の中にいる人でもその実態をあんまり知らない人が多いという、辞典編集部を舞台にしてるっていうだけで、結構画期的というか、面白い小説です。まずはお仕事ものとして、中学生ぐらいから大人まで楽しめます。

でまぁ私わりとこの畑で仕事してきたので、読んでると「あるある」「いるいる」オンパレードで、なかなかがんばって取材したんだなぁ、って感じがしました。編集手法とかは、一昔前のものかなーっていう感じがちょっとあるのですが(単語カードとか)、でも実際にかつてはそういう方法で辞書編集ってやられてきたものなんで、決して間違いではないです。普段何気なく使っている辞書や事典が、こんな風に作られてるものだったのか!って知るだけでも、面白いと思いますよ。

多くの人にとって、辞書は知らない言葉とであったとき「引く」もので、一生の間にあの分厚いページの何ページ分を「読む」だろう、と思うとなんかもったいないというか、色んなことが詰まっている書物なのに、わりと報われない書物でもあるんですよね。でも、辞書とか事典っていうものは、どこかの誰かが、あの分厚い本のページの端から端まで舐めるように校正して、あらゆる言い回しにこだわって、紙からインクから全部吟味して、もしかすると一生にたった一度しかその書物を開かないかも知れない人のために、作り届けているものなんです。この小説の中だと、辞書専用の紙を開発するエピソードが出てきますが、紙だけじゃなく、本が重たくならないインク、裏うつりしない紙、ほつれない栞とか、こだわりにこだわった職人の製本技が結集した作品なんですよ、辞書って。

物語は、中堅の出版社・玄武書房のちょっとさえない営業部員・馬締光也が、新しい国語辞書「大渡海」の編集者として辞書編集部に配属され、少しずつ成長しながら辞書を完成させていくまでの日々を、馬締の新人期にあたる前半と、ベテランになった馬締の下に配属された若い女性編集者・岸辺みどりの視点で語られる後半の、二部構成で描いていきます。下宿の大家さんの娘さんとの穏やかな恋愛エピソードや、同僚のチャラ男・西岡のエピソードなど、程よい味つけもきいていて、飽きさせません。すごく嫌な人物も出てこないし、後味は爽やか。現実の出版の世界はこんなに甘くないのですが、それでも小説だとこのぐらい爽やかでもゆるされる感じ。このまんますぐ映画にできそう。堺雅人あたり主演で。

そして何よりいいなぁ、と思うのが、たぶんこの本を読むと、辞書ひきたくなると思うんですよね。何気なく使っている言葉の意味とか背景とか、伝えたい今のこの気持ちを、言葉でどう表せるんだろう、と思ったときに、そうか辞書があった、って、そう自然に思わせてくれるようなお話が随所にあって、それがなんだかとても嬉しかったです。

語るとか、書くとか、っていうことは、ひとに何かを伝える、伝えたい、というひとの気持ちなんですね。その気持ちをまっすぐに伝えられるようになるために、言葉を愛することの大切さが、説教くさくなく腑に落ちる感じ、というか。豊穣なる言葉の海へ。皆さんもどうぞ♪

辞書絡み、日本語絡みの本ではこんなのも面白いです。

新解さんの謎 (文春文庫)
赤瀬川 原平
文藝春秋
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新明解ブームを巻き起こしたエッセイ。いろんな辞書を読みくらべてみたくなる。

「のっぺら坊」と「てるてる坊主」―現代日本語の意外な事実
松井 栄一
小学館
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「日本国語大辞典」という日本一の国語辞典の編纂者である著者による、日本語エッセイ。


白川静さんに学ぶ漢字は楽しい (新潮文庫)
小山 鉄郎
新潮社
売り上げランキング: 98205

「字通」「字訓」「字統」という一般に「白川三部作」と呼ばれる漢字の辞典を著した、白川静の研究成果をもとに、漢字の成り立ちを紹介。ただし、白川漢字学は一般的な漢字研究の中では割と異端です。これ読んでまるごと「そうなのか!」と暗記してしまうと、国語の試験であんまりいい点とれないかも知れないので注意。それでも白川漢字学はとてもスリリングではまると面白いです。入門編としてどうぞ。


posted by なつめ at 22:12| Comment(5) | TrackBack(0) | おとなが読む本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
多種多様な職業舞台が楽しめるのが小説を読む醍醐味の一つですが、三浦しをんの小説をエッセイと平行して読んでいくと「好きが高じて小説一本書くまでに至ったのだ」というくらい題材に対する作者ののめり込みエピソードをいくつも発見できて2度美味しいです。

「風が強く吹いている」もそうですが三浦作品はメディア化がバッチリいけちゃう物が多いように感じました。
「まほろ駅前多田便利軒」も瑛太や松田龍平といったキャスティングがはまってていい雰囲気がそのまま残ってくれますし、こちらは山田ユギ作画で漫画にもなってます。これまた絵のタッチが絶妙です♪
「舟を編む」も堺雅人主演とかぜひやってほしーい!!

思いを伝えようとしてもなかなか難しく、無力さを感じることもしょっちゅうですが、そんな時に三浦しをんの小説やエッセイを読むと、「私はこう考えています」「今自分が愛しているものはこれです」と怯まず発信し続ける作者の意思が感じられて「また次。また明日。」とポジティブな気持ちになれます。(エッセイでは爆笑も届けてくれて、ホント素晴らしいですww)

今日なつめさんの文章を読んで、なかなか途方もないですが、人と繋がっていくためには言葉を尽くして伝えあうしかないよなぁ、とまた思ったのでした。
Posted by ないんちぇ at 2012年03月21日 01:03
ご無沙汰してます。
引っ越しやら何やらでバタバタしてました^^;

当たり前なのですが、そっか辞書編集部なるものがあるのか!と今更気付きました(--;)
気付かないうちに誰かのおかげで世界は回ってますね(>_<)

私は高校からもっぱら電子辞書派になってしまったのですが、それを少し悲しく思ってました。便利になるにつれ悪い面もありますしね。

ちょうど最近本に飢えていたので読んでみたいと思います^^
Posted by もり at 2012年03月21日 01:24
以前、「王様のブランチ」の本コーナーで紹介されてるのを見ました。
(このコーナーだけは好きで毎週見ています)

いいなって思った本は、ちゃんとメモしておかないといけませんね。
いざ本屋さんに行っても作品名も著者の名前もド忘れしてしまって^_^;
この「舟を編む」もそんな事情で買えなかった作品のひとつです。

この記事を見るまですっかり忘れてましたが・・・(笑)
読んでみたいなと思ってた作品だったので、忘れないうちに本屋さんへ行きたいと思います!!



Posted by のの at 2012年03月21日 08:30
三浦しをんさんと言えば、ちょうど私が就職活動をしていた時(敗退したとき)就職活動をテーマにした「格闘するものに○」を読んで共感した覚えがあります。それからは1、2冊は読みましたが、あまりご縁のある作家さんではありませんでした。
私も、辞書などの類は本の形になっていて、ページをめくりながら引きたいので、電子辞書は持ってません。仕事で参考にする法令等も最近はネットで閲覧してください的な方向になりつつあるので、見にくくて仕方ありません(泣)

辞書編集部か…おもしろそう…読んでみます。
Posted by mayu at 2012年03月21日 22:11
◇ないんちぇさま:
ほうほう、エッセイも面白いんですね。「風が…」のときは印象薄いまま終わってしまったので、これを機会にエッセイも読んでみようかな。ありがとうございます。

◇もりさま:
電子辞書も、さまざまな弊害を言われつつ、ちょっとずつ進化してるんですよね。なんといっても一番優れているところは、キーワード検索、全文検索といった機能だと思います。紙とデジタル、それぞれのいいところがちゃんと残る形で進化していくといいんですが。

◇ののさま:
おお、こんなところでお役にたてて嬉しいです。是非読んでくださいねー♪

◇mayuさま:
私も学生時代は紙派だったんですよ。まず一枚一枚全部めくって紙がはりついてるのをはがして、めくりやすくしたりしてね。そんな技術も紙の辞書の衰退とともに消えていってしまうのかも…。そんな辞書がお好きな方にはとてもオススメの一冊です。
Posted by なつめ at 2012年03月25日 23:11
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