2013年02月08日

ペコロスの母に会いに行く

twitterのTLに流れてきて、なんとなく読みたくなって購入した漫画です。

ペコロスの母に会いに行く
岡野 雄一
西日本新聞社
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老いて認知症を発症し、グループホームに暮らす母みつえ(89歳)と、ペコロスこと息子ゆーいち(40歳にて東京より地元長崎にUターン、タウン誌編集等を経て、フリーの漫画家・ライターとなる、62歳)の、おかしくてちょっぴり切ない老いの日々をほのぼのとしたタッチで描く、4コマ漫画の本です。もともと自費出版だったものが評判を呼び、西日本出版社から刊行されて、なんと今年は映画にもなるんだとか。公式サイトとかFaceBookを見ると、まさに撮影佳境に入っているようです。赤木春恵さんちょっと違うんじゃ、という気はするものの、岩松了さん、温水洋一さん、加瀬亮さんなど芸達者な役者さんが揃ってるので、わりと期待できそう。原ひさ子さんとか生きてらしたらあってた気がする。トトロのおばあちゃん役の北林谷榮さんとかもアリかも知れない。ただ、赤木春恵さんももう米寿だし、これまでとは違う演技を見せてくれるかも知れませんね。

今月はちょうど岩波ホールで「八月の鯨」の再映があるらしくて、これももうどちらも亡くなった往年の大女優、リリアン・ギッシュとベティ・ディヴィスの競演がもんのすごく豪華な老女映画だったのですが、こんな風に「おおっ」と思わせられるような演技が見られるといいな。

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いわゆる「闘病漫画」とか「介護漫画」というわけじゃなくて、老いもぼけもぜーんぶ泣き笑いしながらいつか穏やかに過ぎていく、老母との日々は、ここまで至るにはたぶんそれなりの修羅場もあっただろうな、と、祖母の自宅介護も見てきた私としては思ったりもするんですが、そのへん飲み込んだ上での穏やかな「晩年」の母親に寄り添う60過ぎの息子のまなざしはとてもあたたかくて、あー男の子っつうのは60歳過ぎてもマザコンなんだなと。いい意味で言ってますが。そんなことを思ったりしました。

ぼけにまつわる面白エピソードは、家族の認知症の介護経験がない人にとってはなんだか冗談みたいに思えるでしょうが、実際身内に認知症の人がいる人にとっては「あるあるあるある!」な話がいろいろあるんじゃないかと思います。

100歳で亡くなった母方の祖母も、最後の数年は寝たきりですっかりぼけてしまったのですが、もう四半世紀以上も前になくなった祖父と会話してたり、私なんか孫娘ですがこれまた大昔になくなった親戚とかのキャラクターを会うたびに適当に割り振られているのに、なぜかひ孫のチョビのことだけははっきり認識してたり、介護認定の人が家にくるときだけ妙〜にしゃきっとしちゃって、ああ、要介護度が下がっちゃう…orz っていうんで家族は逆の意味でハラハラしてたりとか、いろんなことを思い出しました。すごく大変(特に当時まだ働いていた母は)だったはずですが、でもそんな日々の中にも色んなちょっとした笑いがあったし、知らなかった若かりし日の祖母との出会いもあったし、あれはあれで得がたい日々だった、と思いだすと、この漫画の温かい空気はなんか腑に落ちるのです。

私自身はそんなことを思い出すきっかけになりましたが、家族の痴呆とか介護経験がなきゃ読めないかっていうとぜんぜんそんなことはなくて、長崎弁のあったかい台詞まわしや「ランターン」「おすわさん」といった地域性の強いキーワードに単純に好奇心をくすぐられながら、自分の知らない地方都市の生活を垣間見る、というのも単純にとても面白かったです。ああー、こういうことをこんな風に言うんだな、とか、東京に暮らしているとなんだか方言には逆にあこがれるんですよね。標準語じゃとてもとても表現しきれないようなことが「なるほど!」と膝を打ちたくなるような簡潔な言葉で表現できたり。

そして、老いて身軽になり精神だけは自由に時の流れを超える母の姿を追いかけながら、作者のペコロス氏もまた、長崎という土地で過ごした自らの幼年期、すでに亡くなっている父の面影と幾度も出会いなおし、ほこりのたまったアルバムの写真を一枚一枚丁寧に取り出して新しいアルバムに貼りなおすように、若き日の父や母の姿を丁寧に再構築していきます。それは親の老いや死というものを、自分の中に取り込んでいく作業のひとつなんだろうな、という感じがしました。絵柄のほのぼの感とは異なり、長崎の町を舞台に、時空を自在に飛び越えつつ物語が展開する構成はなかなかに巧みで、ぐっと引き込まれるものがあります。単純な日常系4コマではないです。

お母さんの生きてきた人生は、若い頃には戦争や原爆投下があり、酒乱の夫に泣かされて、苦難の連続であるのですが、それでも長く生きて老いて呆けていくことは、人生最後に与えられるプレゼントのようなものなのだなぁ、とふと思うような、そんなほろ苦い温かさがあります。これはひと昔ふた昔前の女性の「女の人生」なわけなので、こんなものを美化したらあかん、女性はもっと若いうちからちゃんと自分の幸せのために生きるべき!という21世紀的なツッコミは、ちょっと棚上げにして読みましょう。

思うにこれは、男性のほうが圧倒的に感情移入する漫画なんじゃないかな。男の子(62歳のオッサンだけど)というのは、とにかくオッサンになろうがハゲようが、お母さんが好きなんだよなぁ、こんな風に描かずにいられないぐらい、お母さんが好きなんだよなぁ、というところに、なんともいえないもどかしさと、人間という弱い生き物の愛おしさを感じる作品でした。

認知症の家族の介護生活のさなかにいる人には、場合によってはちょっとしんどいかも知れませんが、まだまだこれから、とか一段落した、という人には特にオススメの一冊かなーと思います。映画もいい感じに仕上がるといいな。
posted by なつめ at 01:07| Comment(5) | TrackBack(0) | おとなが読む本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは

本の紹介有難うございます。
まさに我が家に必要な本でさっそく探して読もうと思います

年末から急に認知症が進みトイレの感覚が麻痺し一人暮らしが困難になってきた母にケアつきマンションに入ってもらおうと今実家に来ています。

施設見学に行ってきましたが最近はいろいろ変わってきていて1階がデイサービスを提供していて2階はグループホーム、3〜4階がケアつきマンションになっていました
入所金などは要らず部屋代と飲食などの実費のみで個室内もきれいでした。

本人はこれからはこういうところじゃなきゃと言ってるかと思うと翌日は私のことをそういうところに閉じ込めて、死ねばいいんでしょ!って言ったりと日々変わりここ1ヶ月面倒見ていた弟はかなり参っているようでした。

頭でこれは病気なんだからとは思ってもほんとにひどい言動をされるとつい怒りたくなってしまいストレスが溜まります。

自分もこうなるかも知れないんだからと穏やかに話す努力の日々です。

こちらへの書き込み時に名前をどう書いていたかわからなくなりました。
以前と違っていたらすみませんm(__)m
Posted by Noriko at 2013年02月08日 21:29
我が家にも軽い認知症を患った祖母がいます。
主に面倒をみているのは叔母で、私は叔母が仕事に行ってる間、面倒をみてます。

うちの祖母はよく妄想話をするので、最初こそ、祖母の言うことにまともに取り合ってイライラしたりもしましたが…
最近は「今日はバアチャンこんなこと言ってたよ(笑)」と叔母と二人で笑えるようになり、少し心に余裕ができたような気がします。

ご紹介していただいた本、共感できそうな感じで興味が湧きますね。
読んでみたいなと思います。
Posted by のの at 2013年02月09日 20:59
6年前に亡くなった私の父も認知症でした。

若い頃は180cmの長身で仕事もできて、ちょっと自慢の父でした。
自分は5歳の時に父を戦地の中国で亡くし、18歳で母を亡くしたということもあり、大人の事情で片親になってしまった娘(孫)のこともとても可愛がってくれ、物心両面で支えてくれました。

亡くなる5年前くらいから徐々に症状が出始めましたが、最初は車を運転していて土手から滑り落ちるという事件を起こしました。
頭の切れる人…というイメージだった父がどんどん壊れていく姿を見るのは、家族にとって耐え難いものでした。

決定的な治療法はないので、薬で進行を遅らせるくらいしか方法はありませんでしたが、母はとてもよく尽くしていたと思います。
認知症患者は頭の機能は壊れていても、首から下は健常なので体力はあるんです。
先にも触れましたように父は大柄でしたので、150cmにも満たない母には骨の折れる介護の日々だったと思いますが、愚痴もこぼさず淡々と当たり前のことをやってるだけ…という風情でした。

昭和ヒトケタで破天荒なところもあった父は、若い頃には母を泣かせたこともありましたが、そんなことをなかったかの如く父に向き合う母…心の中はいかばかりだったのでしょう。
もっと話を聞いてあげればよかったと悔やみます。
ま、母はまだバリバリ元気なのでこれから大切にしてあげたいですね。

父が亡くなった時、母は『自分にできることはやったから悔いはない。』と言い切りました。
父に比べ娘たちから尊敬されることの少なかった母でしたが、この時ばかりは凄いと思いました。

父が逝って6年、今度の日曜日は7回忌です。
3回忌の時、『次は二人で帰って来られるかなー。』と言ってた娘は今回も寂しく一人で帰省ですが、娘を心配した父が遣わせてくれたとしか思えない王子にめぐり会い、日々支えられています。

今ご家族を介護されている皆さま、本当に大変だと思いますが、無理せず自分のできることをやって差し上げてくださいね。
きっと思いは伝わると思います。

Posted by れいこ at 2013年02月10日 19:33
御存じかもですが、他に興味のある方もいるかもなので、書いておきます。
NHK・BSでドラマ化されたようですね。今、番宣見ました。

NHK・BSプレミアム 
2月17日(日)午後10時00分〜11時00分
「ペコロス、母に会いに行く」

「の」を取ったんですね。
イッセー尾形の禿げ頭がいかにもズラって感じなんですが^^;
録画予約しましたが、ドラマはいつも放置だから見れるかなぁ〜
私の場合、思い切って映画のチケット取っちゃう方が見れたりするんですよね。
両方見て、違いを楽しむのもよさそうだけど^^
Posted by yukima at 2013年02月15日 10:20
以前新聞のコラム欄でこの本が紹介されていたのを読み、興味を惹かれていたので、なつめさんの記事を読んで早速TUTAYAに行ったものの売り切れ、取り寄せてもらったのが昨日届き一気に読みました。(思いのほか大きな本だったので、手渡された時にちょっとびっくり^^;)
読んだらなんだかいろいろな思いがこみ上げてきました。
ほのぼのとした絵柄と手書き文字の方言の柔らかさ、ペコロス氏のみつえさんへの愛情にもグッときましたが、それと同時に実家の母と重なる部分がありちょっと/切ない気持ちになったり…

母は祖父母(母にとっての舅・姑)が介護が必要になった時に、それまでやってた小料理屋をやめて父と一緒に祖父母と同居し面倒をみました。
料理好きな母が知人の勧めで40歳も過ぎてから叔父夫婦と母の実家を改装して始めたお店は、大変だっただろうけどやりがいもあったし、家族連れやサラリーマン、近くの大学生達などいろんなお客さんが来てくれて、それなりに愛されていたので、その店をたたまなくてはならなくなった事は正直とても無念だったと思います。
まぁ、当時わたしは、そのせいで突然兄と2人暮らしを余儀なくされ、それまで母にまかせっきりだった家事全般をやらなければならなくなった自分の事で精いっぱいで、母の気持ちを考えてる余裕はありませんでしたが、今その頃の母と同じくらいの年になりいろいろ思いを馳せる事もあります。

母は黙々と祖父母の面倒を見て、その後病院に入った後も2人が亡くなるまで、毎日遠い病院まで通い続けました。 今でもたまにその道を通ると「この道を何百回車で往復したかなぁ…」と懐かしむように言います。

祖父が呆けてきて買いたい病!?になり、毎日食べもしないのに大量の市販の天ぷらを買ってきたり魚を買ってくる内はまだよかったものの、その後ペットショップから高価な馬鹿デカイオウムが届いたり、デパートの呉服売り場から、非売品であるはずの浴衣を着た女児のマネキンが届いたりした時にはさすがに焦ってました。←じいちゃん、どんな無理言って買ったんだか …今では家族の笑い話になってますけどね。

父はペコロス氏のお父さんと同じような人なので、母もずっと苦労が絶えませんが、、少し違う所はさとるさんは年老いて温厚な好々爺になったのに対し、父はいまだに時々いろいろやらかしてくれるので、母の苦労は現役な所でしょうか(汗) いい加減、父も年相応に枯れてほしいです(笑)
なので、母にいつかみつえさんのように苦労をすべて許し、父を愛おしいと思う日は来るのかは、いまだ頭はしゃっきりしている母を見てると‘う〜ん、どうだろう…’って感じですが^^;

ちょうど先日母にも見せようと、「シルバー川柳」なる本を購入しました。これも新聞で何句か紹介されているのを見て思わず笑っちゃったので、一冊にまとめられてると知り買ったのですが、老いや病気や死など、どちらかというと笑う事がタブーとされている事柄が軽やかな笑いに変えられていて、なんかいいなぁ〜と思って…
わたしが気に入っている句は「恋かなと 思っていたら不整脈」とか「遺影用 笑い過ぎだと却下され」など…
名句がたくさん載っているので、もしまだご覧になってなければご一読をお勧めします。

またしても長々すみませ〜ん!


Posted by Bozi at 2013年02月15日 12:51
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