2013年10月06日

そして父になる

先週みてきたのでもう一週間たっちゃったんですが、この映画の話を。

そして父になる(是枝裕和監督)



今年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したこともあってか、わりと大きめの劇場で見てきたんですが、ほぼ満席でした。福山雅治ファンも多いのかなー。私は、昔の「ひとつ屋根の下」あたりの時期の「売り出し中のミュージシャンがテレビドラマに出てる」って感じのイメージが強くて、今のコンサートをやれば満席、テレビをつければ彼出演のコマーシャルだらけでいったい広告してる商品が何なのかすらよくわからん、観てないがガリレオは当たり役らしい、とかの状況がよく飲み込めてないんですが、でも彼も父親役やる年齢なのかーと感慨深く。


いしだ壱成およびのりピーがああいうことになっちゃったんで、おそらくもう再放送とかないドラマですが、この頃とほとんど顔変わってない福山雅治すごい。

是枝監督は同じくカンヌで大絶賛され、柳楽優弥くんが史上最年少で主演男優賞を受賞した「誰も知らない」も大好きなのですが、あれは1980年代に起きた「巣鴨子ども置き去り事件」をモチーフにしていて、今回の作品も、実際に起きた赤ん坊取り違え事件とその後を追ったルポルタージュ「ねじれた絆」に着想を得ています。

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こっちの本は未読なんですが…。

以下、ネタバレあるのでこれからご覧になる方はご注意を。

「誰も知らない」はドキュメンタリー畑出身の是枝監督らしく、ほとんど子どもたちの生活をそのまま垣間見ているような感じが印象的な作品だったのですが、今回の「そして父になる」はそれに比べるとずいぶんドラマ性がはっきりしているし、主人公が「主人公らしい」作品です。私は正直、福山雅治の演技力には期待してなかったのですが(<失礼)、エリートで自信家で頭が古くて、夫としても父親としても実に「鼻持ちならない男」が、子どもの取り違え事件を通じて揺さぶられていく様子をうまく演じていました。

主人公の野々宮(福山)は大手の建設会社に勤めるエリートで、妻のみどり(尾野真千子)とひとり息子と高級マンションに住んで、子どもにはお受験させてピアノ習わせて、っていうまあ絵に描いたような「ランク上」生活を送っていますが、仕事仕事で子育ては妻に任せきりだし子どもと一緒に遊びもしないし風呂にも入れない、というような男。他方、赤ん坊を取り違えられた相手方の夫妻は、取り違えられた長男含め三人の子どもを育てている年の差夫婦で、さえない風貌の電気屋斎木(リリー・フランキー)と、弁当屋でパートで働く勝気そうな妻ゆかり(真木よう子)という組み合わせ。野々宮夫妻からすると、普段は「お付き合いのない」人種。

子どもの取り違えという事件さえなければ、おそらく決して交わることのなかった二つの家族が、子どもを通じて戸惑いながら交流を始める、このあたりの演出が実に細やかなんですね。とりあえずお互い子どもと一緒にあってみましょう、ということで一緒に行ったショッピングモールみたいなとこでの、斎木夫妻のがさつな感じに対する野々宮夫妻の困惑ぶり、噛み潰したストローを見た野々宮のいやーな表情とかが、実にリアル。

斎木夫妻を軽蔑し、強引に「二人ともうちで引き取れないか」などと言い出すものの、仕事仕事で子どもも妻もほったらかしの野々宮と、母親同士徐々にゆかりと心を通わせていくみどりとの感情のすれ違い、「もっと子どもと遊んでやらな」「子育てかて大事な仕事やで」と年上の斎木に諭されて「うちにはうちのやり方があるんです」と啖呵をきるものの、結局子どもとどうやって遊んでいいかもわからず、ひとりで育ての親の家に帰ってしまった実の息子のりゅうせいを引き取りにいって「うちは両方引き取ったっていいんですよ」とゆかりに言われて悄然とする野々宮の姿も、いかにもありそう、って感じで。

子どもの取り違え、というドラマチックな出来事を扱っているのに、子どもが親を慕って泣き叫ぶとかそういう演出はないんですよね。描かれるのは、時間がどんどん過ぎていく中で、どうしたらいいのかわからない大人たちの戸惑いと焦り、勝手に仲良くなっていく子どもたち。その関係性のゆらぎです。エリートと田舎の電気屋、という上下関係が、いつも子どもと遊んでやり、おもちゃもすぐに直してくれて、子どもたちに圧倒的に懐かれている斎木と、どうやって子どもと遊んだらいいのかもわからない野々宮の間で反転し、また対立する関係にあった二組の夫婦が、「男にはわかんないのよ」というゆかりとみどりという母親たちと父親たち、という別の組み合わせになることもある。互いの子どもを取り替えた生活を試してみるうちに「どうしよう、りゅうせいが可愛くなってきた。けいたに申し訳ない。」と言ってみどりが涙するシーンとか、人と人との関係というのは、一緒に過ごす時間の中で作られてもいくし、ゆらいでもいくのだ、ということを、さまざまな形で実感させられる、そんな感じ。

大人の都合に翻弄されながら、大人をじっと見ている子どもたちの表情もリアルだったな。子どもは子どもですごく色んなことを考えたり感じたりしているはずなんですが、そこの部分はあえて台詞とかにしないんですね。あくまで表情だし、その表情も、鈍感な大人たちはわかってない。観客はその鈍感な大人たちの側にいるので、子供を撮るのが上手い是枝監督ですが、今回の作品ではその子どもに「寄り添えてない大人の視線」を逆に上手く再現して撮ってる感じがした。だからこそただただ無邪気に見えた子どもたちがラスト近くで見せる表情に胸がぎゅっとなる。私が好きなのは、預けられたりゅうせいが口うるさい野々宮に箸使いを教えられて、風呂場でひとりでおもちゃを箸でひろって遊んでるシーンです。まったく台詞に出てこない子どもの心情を想像すると、ただただ無邪気なシーンにも見えるし、ものすごくいじらしいシーンにも見えるんです。

あと、去年テレビでやってた「ゴーイングマイホーム」でも思ったのですが、父子の葛藤というのはなんとなく是枝監督の作品に色んな形で反復されるベース音みたいな感じがします。「ゴーイングマイホーム」でも印象的な厳格な父親役で出ていた夏八木勲さんが、本作にも福山雅治演じる主人公の父親役としてごく短いシーンですが出演してます。基本的に子どもと二組の夫婦中心に流れていくドラマの中では異質な部分なんですが、そこが実は大事なシーンでもあるんですね。厳格な父親とその後妻(風吹ジュン)に対する反発を顕わにしている野々宮が、「大事なのは血だぞ。」と言いふくめる父親と同じロジックを振りかざしている自分を自覚するときの表情とか、義理の母親に電話するシーンとかは、是枝作品にしては珍しく作為的な演出も感じたんですが、それでもいいシーンでした。

パンフレット読むまで知らなかったんですが、夏八木勲さんって今年5月にお亡くなりになってたんですね。「ゴーイングマイホーム」が最後の出演作品だったようです。合掌。

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是枝監督は自分で脚本・監督・演出までやってるので、撮影現場で役者さんとすごく濃密なコミュニケーションをとりながら撮影していくんですね。パンフレット読んでたら一度カットされたけど役者さんの意見で戻ったシーンの話とかも出てきてたんですが、その中に、野々宮がカメラの中に息子がとった自分の姿を見つけるシーンがあって、これはすごくいいシーンだったので、これあったほうがいいと言った真木よう子センスあるぅ、と思いました。

とにかくねぇ、真木よう子っていう女優は、「ゆれる」でも思ったんですが、残酷な地方都市の女を演じさせると右に出るものがいないんじゃないか、と思う。すぱすぱタバコをふかしながらも愛情たっぷりに子どもを育てているスレた母親役、よかったです。対するオノマチは地味で控えめな母親の役なんだけど、旬の女優だけあって、その地味さの中に潜んでいる鬱屈とか危うさをときどきふっと感じさせるバランスが絶妙だったな。

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「ゆれる」も私大好きな映画なんですけど、これももう7年も前の映画なのか!早い…。

あと、リリー・フランキーには映画「ぐるりのこと」で恋をしたんですけど、最近役者づいてますよねー。「凶悪」はピエール瀧も出てるしちょっと観たいんですが、こわそう。

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しかしこうやって好きな映画を並べると、要するに私の好みはこういう映画なんだなーというのが実にはっきりわかるというか…。そんな気がします(汗)。というわけで、こういう映画が好きな方には超オススメです。是枝監督、エッセイを出版されたそうなので、それも読むつもり。

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これ、絵本出版のポプラ社から出版っていうところがなんか私的にツボ。クーナの絵本出版したからかな?と思ったんですが、これはまた別の出版社なんですよね。不思議。

そうだ、あと是枝監督つながりでいうと、柳楽優弥くんも出演している「許されざる者」が公開中ですね。「誰も知らない」のメイキングでみた柳楽くんは、とても繊細な、でもごく普通のサッカー好きな少年で、この子を見出してカンヌまで連れていってしまった是枝監督は罪つくりだったんじゃないか、と思ったこともあったんだけど(<案の定って感じでその後しばらく作品にも恵まれず迷走してたし)、結婚もしてパパにもなって、やっと安定してきた感じというか、デビューが早いのでなんとなく忘れがちですが、実はまだ23歳。この作品がデビューでもおかしくない人。ここからまた頑張っていい役者さんになって欲しいです。

このコマーシャル好きだったんだよなぁー。

仮面ライダー見てると流れるのです、ホンダのCM。


ラベル:映画
posted by なつめ at 00:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画のこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なつめ様
こんにちは、
今回も待ち遠しく記事アップを待っておりましたので大変うれしく読みました。

実は、私も先週「そして父になる」を見てきたんです。
是枝監督が好きで、「誰も知らない」以降、「歩いても歩いても」やテレビドラマの「ゴーイングマイホーム」、ダイハツの車のCM(YOUと柳楽親子の)に至るまでファンをやってきました。
ですから、「そして父になる」は本当に公開が待ち遠しく、オノマチ/真木コンビも民放のドラマで好きになったのでその点でも期待が大きかったです。
そして、その期待通りにとても見ごたえのある作品だったと思います。
CS放送で福山さんと是枝監督の対談番組を見たのですが、そこでも話題にのぼっていた子役の魅力がすごく大きかったですね。
演技らしい演技を子供たちに強制せず、あくまでも自然の、ありのままの子供らしさを引き出そうとした監督のこだわりには本当に敬服しました。特に関西弁の「りゅうせい」役の子供は素晴らしかったですよね。

「ゴーイングホーム」でも「歩いても歩いても」でも、登場人物の超現実的な会話のやり取りや空気感に笑わされるやら泣かされるやらで、すっかり是枝ワールドに引き込まれていましたので、今回の作品も重たいテーマでありながらメロドラマには間違ってもならず、笑わせるところではきっちり笑わせつつも、本題である「父性」「親子」について深く考えさせる鋭さも持っていて見ごたえがありました。

ただ、その自分の感動をうまく言葉で表現できずもどかしく思っていたので、今日のなつめ様の記事を読んで、「そうそう、そういうこと!」といちいち共感し勝手ながらとてもスッキリいたしました。
感謝いたします。
そのひとこと、お伝えしたくてコメントいたしました。

SJのペンミの熱も冷めないまま、是枝監督にもやられてしまい、なかなか本業に集中できない一週間でしたが、また、こんなわくわくする何かしらと接触できる機会が早く来るといいなぁ。

なつめ様、これからもいろいろ、素敵なもの、紹介してくださいませね。

ではまた。
Posted by TOSH at 2013年10月06日 13:48
はじめまして。
superjuniorのメンバー紹介でこのブログをみつけてから、私自身本がとても好きなことと、なつめママさんの文章がだいすきでよくお邪魔させていただいてます^ ^

今日はじめて「そして父になる」で一人映画デビューしてきました。
なつめママさんの記事を読んで、すごく共感しました。
はじめはこども達のセリフがものすごく少ないことにびっくりしましたが、物語がすすむにつれて、無邪気なだけにみえていたこども達が色々な顔をみせてくれて、すごくいじらしかったです。

私は3日程前に小説のほうを読んでしまっていたのですが、あの映画は小説を読まないほうが楽しめるのではないかと思いました。

一方的な感想ですみません(;_;)

また記事の更新を楽しみにしています♪
Posted by Rinca at 2013年10月07日 23:03
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