2013年11月24日

大阪で文楽みてきた。

大阪遠征からノンストップの一週間、どうにか風邪もひかずに乗り切りましたが疲れましたw チョビの学校見学とかもあって、その分仕事は残業三昧、この週末まできてようやく一息つけた感じ。というわけで、大阪遠征のもうひとつのお楽しみだった文楽のことを書こうと思います。ああ、でもちょっと時間たっちゃったのが残念。戻ってから数日ぐらい、あらゆる人に「文楽すばらしい!」「見て!」と言いまくっていたテンションからちょっと落ち着いてしまった…。

でも、とにかくすんばらしかったのです。人生初文楽。見てきたのはこちらの演目。

通し文楽 伊賀越道中双六(いがこえどうちゅうすごろく

文楽協会創立50周年記念、竹本義太夫300回忌の記念公演ということだったそうです。私は初めてなのでよく知らなかったのですが、最近の文楽の公演では、全部のお話を通しで演じることは少なくて、割といい場面だけつまんで上演することが多いのだそうで、この演目については通しで上演されるのはなんと21年ぶり!だそうです。そんな話だけでもわくわくしていたのですが、ただお話は見ていなくても聞いたことがある「曽根崎心中」とかじゃなくて、地味といわれるあだ討ちもの、話わかるかなぁー、前日仕事して深夜の大阪入りだし、寝ちゃわないかなぁーとちょっと不安ではあったのです。

でもそんな心配はご無用という感じの素晴らしい舞台でした。私が見たのは前半部分、といっても10時半〜4時まで四時間半。その前に、若い演者さんによる二人使いのお人形さんの舞もあって早めに劇場に入ったので、五時間あまりをみっちり劇場で過ごしたんですが、眠くなるどころか、引き込まれる引き込まれる。最後の段のエンディングではマジ泣きして、化粧直してからスパショに行った私だったのでした。

文楽っていうのは人形劇、っていう認識だったんですが、実際のところはお人形さんの使い手のほかに、舞台の袖のところでお話を語る大夫さん、そして伴奏の三味線さんがいて、この三つがあわさった三位一体の芸術です。そして「文楽を聞きに行く」という表現があるぐらい、全体の中で語りの力がしめるウェイトがすごく大きいアートなんだな、っていうのを実際にみてつくづく感じました。

長い長いお話なのですが、だいたいひとつのお話が15〜20分ぐらいの「段」(=シーン)にわかれていて、その段ごとに演じる大夫さんの三味線さんがかわります。長めの段だと、段の途中で大夫さんと三味線さんが乗っていた台が忍者屋敷みたいにくるっとまわって、別の大夫さんと三味線さんに交代したりします。というぐらい、ものすごい体力を使う芸なんですね。登場人物が沢山いても、基本的に大夫さんは一人きりで全部の登場人物の声と、ナレーションにあたる部分を語ります。なので全然休みなしです。当然男の役の声も女の役の声もおじさん(おじいさん)です。ところがこれ、違和感なくなってくるんだよねぇ…。

違和感といえば、お人形のほう。これは基本的に三人の人形使いさんが使うのですが、メインの使い手さんは裃つけて顔出しでお人形を使います。あとの二人は黒子の装束をつけているんですが、それでもだいぶ目立つのに、裃つけたおじさん(おじいさん)が思いっきり人形の真横ぐらいにいるわけです。テレビや写真で見てたときには、これなんかシュールだよなぁ…と感じてて、気にならないんだろうかとか思ってたんです。

これがねぇ。気にならないんですよ。

なんかもう、マジックとしか思えないんですが、登場人物が多い場面だと、お人形さんが5体とか6体とか舞台にいるわけです。ということは、裃つけたおじさんが6人、プラス黒子が12人、合計18人ものおじさんお兄さんたちが身体をよせあって狭い舞台にひしめき合ってたりするわけです。それだけの人数の男性が、横幅15メートルぐらいのところにくっついて立ってる図を想像してください。かなりシュールです。こんな風に、演じている人が堂々と顔だしてる人形劇ってあんまりないんじゃないでしょうか。ところがねぇ、その人間たちの姿が一切目に入らなくなる瞬間がきちゃうんですよ。そうなったときって、もうお人形しか目に入らなくなるんです。そして、舞台の右側から聞こえてくる大夫さんの声も、お人形さんの声にしか聞こえなくなるんです。舞台の上で生きているのは人形だけで、それ以外の人間がまるっきり目に入らなくなる。これはもうマジックですよ!ミラクルですよ!ユネスコ世界無形文化遺産に登録されるわけですよ!!

すみません、とてもウザい感じで語ってますが、本当にすごいんですよ…もう観て!観にいって!としかいえないです。テレビでダイジェストっぽいやつなら私も見たことはあったんですが、生は全然違います。やっぱりこの、大夫さんの生の声や息遣い、そしてお人形だけが浮かび上がってくる感じっていうのはライブじゃないとわかんないんだと思います。私が見た公演はちょうどNHKの中継が入ってて、たぶんいつか教育テレビとかでやるんだと思うんですが、きっとそれだと何分の一も伝わらないんだよなぁ…と思う。

世話物じゃないと話がわからないなんてことは全然ありませんでした。一応イヤホンガイド借りていって、これは舞台のストーリーだけじゃなく見所とかまで教えてくれる便利なものなのですが、私は舞台から気が散っちゃうので途中ではずしてしまいました。これがなくても、パンフレットに書いてある段ごとのあらすじを、開始前にばーっと読んで頭に叩き込んでおけば、ほとんどの台詞は聞き取れます。あと、聞き取れなくても、舞台の上のほうに字幕で大夫さんが読んでいる床本という台本の言葉が表示されるので、それを助けにしながらでも内容は理解できます。というか私は全然問題なく内容理解できました。誰が何してどうなった、っていう部分も全部語りの中に入ってくるので、そういう意味では歌舞伎よりわかりやすいと思います。

このお話は、いいとこのぼんぼん(志津馬)が芸者(瀬川)に入れ込んでて身請けの約束をしているんだけど、股五郎という悪いやつ(いかにも悪そう。お人形の顔が赤い。赤ら顔はワルモノ役だそうです)に、「実はお前よりもっと高い金で身請けするっていう客が出てきちゃったから早くしないとやばいよ、お前んちいい刀あったじゃん、アレを質に入れて金つくって身請けしてやれよ」とそそのかされて、家宝の刀を質に入れちゃう、ってところからはじまります。このぼんぼんが一応あだ討ちの主人公なんですが、どうもこいつがダメ男なんです。勅使を迎えるお仕事中なのに、この悪い男にそんな話でそそのかされた挙句に「いやーめでたいめでたい。結婚の前祝だね!」ってお酒を勧められて飲んじゃう。そんでべろべろに酔っ払ったりしちゃう。ダメじゃん!仕事中なのにこの男ダメじゃん!瀬川早く別れろ!んでもっと高い金で身請けしてくれる客んとこに行け!と思いながらみてたんですが、とにもかくにもこの馬鹿ぼんの考えなしな行為が、周囲の人を巻き込む悲劇を引き起こしていきます。

この股五郎っていうのは実はもっと悪い親玉に指示されて、お宝の刀「正宗」を手に入れようとしているんですが、その過程で馬鹿ぼんのお父さんを斬り殺しちゃう。そこであだ討ちをしなきゃいけなくなるんですが、このあだ討ちを実現させるために、まあ何人不幸になるんだ!っていうぐらい大勢の人が犠牲になるの。

かくまわれている下手人の股五郎を人質と交換で手に入れるため敵の館に赴き、帰りに襲われて死んじゃう馬鹿ぼんのお父さんの一番弟子の死闘。この人かっこよくて、実にできる男なんです。酔っ払った馬鹿ぼんの代わりにとっさに裃とって勅使のお迎えにいってくれたり。私前半は主にこの人中心に見てたので、この人が死んじゃうシーンとか、「太陽にほえろ」とかでお気に入りの刑事さんが殉職しちゃったぐらいのショックでこのあと何をモチベーションに見たらいいんだろうぐらいの勢いだったんですが、そこのくだりも泣けたし、志津馬のお姉さんの夫が、自分と駆け落ち同然で夫婦になったために実家から勘当されているお姉さんを離縁して、亡くなったお父さんと後家さんの間に生まれたわずか7歳の娘(志津馬の腹違いの妹にあたる)を「妻」にすることで、志津馬との「正式な」血縁関係をつくり助太刀ができる名目をたてるという段で、幼い花嫁が「(三々九度の杯より)あれがほしいー」とお饅頭をさしてだだをこね、饅頭を半分にわって夫婦の杯の代わりにして、実は身重のお姉さんはじめ、これも仇討ちを成就させるため…と大人たちが皆で涙をこらえる中、眠たくなってしまう無邪気な子どもの姿とのコントラストにも涙、涙。

後半の山場、互いに町人であるにも関わらず、図らずもこの騒動の当事者の敵と味方の武士にそれぞれ関わってしまったがために、敵味方の立場にわかれてしまった生き別れの兄妹と、その父親の悲しい再会の段。貧しい雲助の父親が自分の命を捨てて妹(花魁の瀬川=町人に戻っていて今はお米)の想い人(志津馬)の仇の行方を兄十兵衛から聞き出し、わが子の腕の中で息絶えるクライマックスも、ずびずびに泣いてしまいました。舞台は明るいんですけど、そこは夜道で真っ暗という設定で、息絶える直前に親子の名乗りをして父親はなくなるんですが、2歳で生き別れた息子の腕の中で、「ああ、顔がみたい…」という台詞が出たとこで私号泣。ここはもう本当に、人間国宝の竹本住大夫さんの語りの力です。思い出しても目がうるうるしちゃう。人形もすごくて、ここはそれでなくても表情筋なんかない人形が、客席に背中向けちゃってるシーンなんですけど、わが子を恋うるせつなさがその手の動きやなんかからびんびん伝わってきて。

あと人形ですごいなーと思ったのは、台詞がないお人形さんたちもみんないちいち演技しているというか、その役に入ってるんですよね。じっとしているのに息遣いを感じる、その存在感がすごい。今回の舞台、町人に戻った瀬川=お米を演じたのが吉田蓑助さんといって、女形じゃないですけど女の人形の使い手の第一人者で、この方も人間国宝、フランスの芸術文化勲章コマンドゥールとかまでお持ちの方だったんですが、この人が使うお米の何がすごいって、じっとしてるときにも生きてる。しかも「今は町人だけどかつては花魁で、貧しい身なりではあるが、普通の田舎娘とは違う凛とした風情がある」っていう設定が、立ち振る舞いとかたたずまいだけで、なんかわかるんですよ。

私この「千本松原の段」ってとこまでしか見られなかったのですが(<でもここまでで五時間)、後半まだまだ色んな人の巻き込まれ不幸が続いて、最後の最後にあだ討ち成功となるらしいです。が、思ったのは、文楽ってやっぱり「町人」がみる舞台なんですよね。だから、あだ討ちもの、といっても、お侍さんたちの世界の話であるあだ討ちの本筋より、そこからちょっとそれた話である巻き込まれ町人たちの悲劇とか、夫婦の情愛、親子の別れなんかを描いた部分の物語にしめるウェイトが大きい。そんな、自分たち町人もわりと感情移入できるようなキャラクターが出てくるシーンが沢山あって、それ見ておいおい泣く、そういう娯楽だったんだなぁーって思うんです。なので、昔のお話だからよくわからん、とかそういうことは全然ありませんでした。当然設定は昔のことだから、「こんなもん、武士の義理だとかなんだとかいって律儀に付き合わなくてもいいじゃん!自分だけとりあえず逃げればいいじゃん!」とか思っちゃうとこはあるんですが、そこはほれ、そういう時代の話だから…ってことで飲み込んでしまうと、それ以外の部分での、親が子どもを思う気持ちとか、夫婦が口に出さずに相手を思いやっている心情だとかっていうのは、現代に生きている私たちでも十分共感できる話なんです。

あと、暗い話ばかりじゃなくて、合間合間には下女たちが下世話な話をして盛り上がってたりとか、ユーモラスなシーンが織り込んであるので、笑えるところもいっぱいあるんですよ。本筋が悲劇ばっかりだから暗そう、辛気臭そう、と思ってたけど、それだけではありませんでした。

とにかく、難しそうーとか思わずに、沢山の人に見てもらいたい!と思いました。今、大阪市って市長がどんどん文化予算を削っていて、文楽協会もその槍玉にあげられて、お客が入らないと補助金カットっていう形でしばきあげられています。この馬鹿市長、とにかく一度舞台を見てくださいといわれて観にいって「ぐっとくるものがない」「人が顔出してるのが変」「時代にあわせて演出変えたら」とか上から目線でさんざんぶち上げたとか。近松の「曽根崎心中」見て「ラストシーンにぐっとくるものがなかった」んだってよ!市長、それあなたが感性というものをどっかに落っことしてきたせいですよ!!!って感じですが、とにもかくにもその市長の個人的な感性による「俺さまがよくわかんない文化は全部ムダ」しばきは続いていて、お客さんが増えないと補助金大幅カットされることになってて大変なんです。なので、特に大阪周辺の方!どうか一回、騙されたと思って観にいってみてください。本当に素晴らしいです。絶対に後世に残さなきゃいけない芸術だと思います。

今回、生まれて初めての文楽ってことで、私文楽好きのお友達にチケットとってもらってからずーっとわくわくしてまして、色んな本読んで予習してました。

友達に貸してもらったのはこちらの本。
豊竹咲甫大夫と文楽へ行こう (旬報社まんぼうシリーズ)
豊竹 咲甫大夫
旬報社
売り上げランキング: 436,302


表紙がちょっとインパクトあってびっくりしますが、豊竹咲甫大夫さんは中堅の人気大夫さんだそうです。今回私がみた回にも出てらっしゃいました。いいお声でした。舞台に集中してて顔見てないんですけど。この本は、イラストとかも満載の初心者向け文楽入門本です。文楽ってどういうもの?っていう基本から、劇場のオススメお土産菓子情報とかまで気楽に読めて面白いです。

あ、顔で思い出しましたが、文楽の大夫さんには結構涼しい顔立ちのイケメンさんが多く、特に今注目の若手大夫さんに、豊竹咲寿大夫さん(24歳)というイケメンすぎる大夫さんがいます。ブログやってらっしゃるので見てみてください。もういっそこのイケメン大夫さん見てみたいだけの動機で劇場いってもいいと思います。舞台みたらきっと感動するから!

仏果を得ず (双葉文庫)
三浦 しをん
双葉社 (2011-07-14)
売り上げランキング: 70,424


こちらは三浦しをんさん。若手の大夫さんが芸に悩み恋に悩みつつ成長する姿を描いた、いかにも三浦しをんさんらしい爽やかな青春小説です。さらっと読めちゃうんだけど、中に文楽の名作も色々出てくるし、私は上の豊竹咲寿大夫さんの本と並行して読んでたので、道具の名前やなんかが「あ、あれのことだな」とかわかってよかったです。三浦しをんさんの文楽本は「あやつられ文楽鑑賞」も読みましたが、これはまさに今の私と同じ感じで、ウザイぐらい興奮気味に文楽愛を語っちゃってておかしいです。人形使いさんとか大夫さんとかにインタビューしてる記事が色々あって、うらやましいです。

女性文楽ファンの本では、これも読みました。
恋する文楽 (ちくま文庫)
広谷 鏡子
筑摩書房
売り上げランキング: 84,727


じっくりめの評論からインタビュー、地方公演とかまで行き倒したおっかけ日記など、実際に自分が文楽見てあらためて読み直すと「そうだそうだ、その通りだ!」って感じでウンウンうなづいちゃう本です。三浦しをんさんのは「ふーん、なんだか見てみたいかも」っていう気分になる本で、広谷さんのは「わーかーるーーーー!文楽観た人とそれを語りたいーーーー」って気分になる本、って感じです。

読んでないんですが、赤川次郎や橋本治も文楽本を書いてるようですね。男性視線で見た文楽ってどんなものなんだろう?って気になるので、こちらもいつか読んでみたいと思ってます。

大阪の伊賀越道中双六の公演は今日が千秋楽。次は新春興行になるようです。ああ、なんとかしていきたい、日帰りでもいきたい。

というわけで、初文楽鑑賞記でした。学割もあるし、一幕だけ見られる幕見席だと、映画みるぐらいのお値段で見られます。お話が好みにあわなくても、三人の人が一体の人形をあやつってるのを見るだけでも面白いので、本当に是非是非、多くの方に見てもらいたい舞台芸術です。誘ってくれたKさん、ありがとう!なのです。


ラベル:文楽 舞台
posted by なつめ at 23:20| Comment(3) | TrackBack(0) | おでかけメモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おはようございます。私もたまたま興味を持って文楽を見に行ったんですが、時間の都合で1幕目しか見られなくて「ここからが面白いはずでは…」と後ろ髪引かれる思いで劇場を後にしたので、なつめさんの感想を読んで後半見なかったことをちょっと後悔しています…。テレビ中継をチェックすることにします。見どころ解説ありがとうございました。
Posted by さよ at 2013年11月25日 10:38
こんにちは。いつも楽しく拝見してます^^

大阪在住ながら、文楽は一度しか観に行ったことがありません。
でも、私もびっくりするぐらい話に引き込まれて、面白かったことを覚えています。全然「人形」と思わなくなるんですよね〜

なつめさんの記事を読んで、また行きたいなあと思いました!
Posted by myzo at 2013年11月30日 08:55
◇さよさま:
いやーよかったですよね!私も前半で退場したので、後半放映されるの楽しみです!お互いまた行けるといいですね♪

◇myzoさま:
大阪在住、うらやましいです。お正月にも公演ありますから、是非是非また足を運んでご覧になってください!お正月公演では蓑助さんの遊女・梅川が観られるらしいです。うあああ、行きたいよう…
Posted by なつめ at 2013年12月02日 00:49
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