2005年10月05日

『存在の耐えられない軽さ』…シニカルなポルノグラフィ

ミラン・クンデラは私の偏愛する作家の一人。しかも生きている。これは重要なことだ。生きていれば新作が期待できるから。ブローティガンをどんなに偏愛しても、彼の新作を読むことは出来ない。チェコからの亡命作家であるクンデラは、ある時期から小説をチェコ語で書くのではなく、亡命先の国であるフランス語を用いて直接小説を書くスタイルに切り替えた。なつめはフランス文学科なので、実はこの作品もフランス語で読んでいて、お気に入り。

日本語だったら、文庫もあるけど、山本容子さんの装丁の美しい単行本がお薦め。

ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』
千野 栄一訳(チェコ語より)


文庫版もあります。ジュリエット・ビノシュ出演の映画もあるけど、これはまたいずれ映画のカテゴリでレビューしようかと。
有名な小説なので、ストーリーは簡単に。「プラハの春」を背景に、優秀な外科医だけれど浮気性のトマーシュと、彼の元に「籠に入れて送り届けられた」田舎娘のテレザ、トマーシュの愛人であり女流画家であるサビナ、その愛人フランツという、四人の男女の数奇な運命と恋愛を描いた小説。重さと軽さに関する哲学的論考にはじまり、恋愛におけるそして人生における「重さ」と「軽さ」は、実際のところいずれかが肯定的で他方が否定的と言えるのか、というテーマを反復しながら、それぞれの愛と運命に絡め撮られていく男女の姿が描かれています。

まあこう書くとどうにも堅苦しいですが、要するにインテリのエロ小説です。クンデラの恋愛小説は基本的に全部そうです。しかしなんとも言えずよいのです。物語の進行を妨げるような筆者の哲学的考察が、しかし作品の重要部分を占め、その考察には思わず唸らされる説得力があります。時に残酷なほどシニカルに、ヒトという生き物の矛盾をつきながら、エロティックな恋愛の物語は、やがて絶望的な、けれどもこの上なく優しい収束を迎えます。

個人的には、菅野昭正翻訳の『不滅』が彼の作品の中ではこの『存在の…』とタイマンはるぐらい好きなのですが、やっぱり『存在の…』に軍配かな、と思うのは、徹底的にシニカルな小説の最終章に用意された、センチメンタルといってもよいほどの美しいラストシーンがたまらなく好きだから。

といって、ラストシーンから読むような真似だけはゼッタイにしてはいけません。最初から確実に全単語を拾っていくことを要求する、数少ない小説のひとつです。それをクリアしてはじめて、ラストシーンに胸をうたれる権利を獲得するって感じ。逆の見方をすれば、どの文章どの章とも、全く無駄のない、隙のない小説です。惜しむらくは、フランス語で読んだときの流れるようなニュアンスが、翻訳だと少し失われてしまうこと。フランス語版にチャレンジする方はこちらからどうぞ。

※主人公がだらだらしたセックスの最中に、相手の反応と性愛の神秘についてああでもないこうでもないといちいち感心してはその神秘について「…ようだ」語尾で独白し続けるアホ新聞小説とは比べ物になりませんよ!隙だらけのこっちはいったいいつ終わることやら…。


ラベル: 映画
posted by なつめ at 00:28| Comment(0) | TrackBack(1) | おとなが読む本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「存在の耐えられない軽さ」(ミラン・クンデラ 千野栄一訳/集英社文庫)
Excerpt: オススメ度:☆☆☆☆★ オススメ対象:美女のみなさん。美女にモテたいみなさん。 オススメポイント:美女の存在は軽いのか? ツッコミポイント:私は存在の重さにつぶれそう☆
Weblog: びぶりおふぃりあ
Tracked: 2005-10-10 22:47
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